この空の下

短いお話

Breezin'


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何年前だろう、もうかれこれ15年くらい前になるのかな。

初めてNYに行ったときのこと、何もかもが最も安い2月に行った。

 

特にNYが好きだから行ったわけでもなく、仕事で行ったわけでもない。

いつかもっと詳しく話したいとおもうけれど、NYにはメトロポリタン美術館があるから行ったのだった。

 

まずNYの入り口であるJFK空港はと言えば世界一の国の空港とはとても思えない造りだった。

いや、NYのすべてが私には宣伝や広告とは全く異なった所に見えた。

先進国って言えないほどの、ぼこぼこさに驚かされた。

極々マンハッタンの一部だけが素晴らしいだけなのだ。

それを言ってしまえば東京だって同じだが。

つまり行ってみないとどんなところかはわからないということだ。

そもそもNYは世界一の最先端の街だと信じ込んでいた私が愚かだったのだ。

 

1ドルでも節約したい私は空港からマンハッタンのミッドタウンまでタクシーには乗らず15ドルのおんぼろ空港バスに乗った。当時は1ドル、119円の時代だった。

バスの中はボロボロ、シートも内装もボロボロ。そのおんぼろさに猛烈に驚いた。

壁の一部ははがれて内側がむき出しになっていた。

運転手はなんと白人だったが、とにかく出だしからもう、なんだこれはと思ったが、国民皆保険もない国なのだから、いやなら稼いでタクシーに乗りなということだろうか。

もちろん利用している人たちは、私と同様うだつがあがらなそうな人たちばかり。

白人も黒人もヒスパニックも中国もと色とりどりの人たちが乗っていた。

私の隣の席には控えめそうなほっそりとした白人男性が座っていたが彼はどこか誰かに似ていると思った。そうだ、いつか読んだ村上春樹が翻訳していたアメリカの作家の

小説に出てくる掃除機を売るセールスマンだ。とても幸せとは言えない、ちょっとサイコパス的なセールスマンだったけれど、憎めない要素があったなと思う。

そんなふうに勝手に妄想をして私なりにこの旅をたのしもうとしていた。

 

そんな中、道路がものすごく渋滞し一時的にバスが動けないときがあった。

ここぞとばかりに黒人のお尻がかっこよく突き出した女たちがソウルミュージックにのって踊っていたことは、心和む出来事だった。

バスは動き出し、時間がせまっているためか猛スピードを出して合流地点でもお構いなしにぶんぶん飛ばしていたがそれはもう恐怖を感じるほどだったけれども、遠くにぼんやりと薄い膜が張ったみたいな巨大なマンハッタンの摩天楼が太陽の光を受けその姿をあらわにしてきた時、私は全身を何かが突き抜けていくような衝撃を覚えた。

何度も何度も映画で観たあの摩天楼が実物として目の前に迫ってくるその迫力に私は急激に感銘を受けた。

そんな大き感動を引っさげて、無事ミッドタウンにたどり着き、バスを降りて私はホテルへと向かった。

 

滞在中セントラルパークへは毎日のように散歩に出かけた。

緑のある所が私には必要だった。

公園内にある池の氷が張っていないところだけにカルガモが集まっていた。

中の一羽には矢が刺さっていた。そのカルガモだけが仲間からは外れたところにいた。

監視員のような人は見当たらなかった。園内のレストランはまだ営業前だった。

その時、遠くからエレキギターの音が聴こえてきた。

わたしは導かれるように音の方に歩いて行った。

音は段々大きくなり、木陰から長身のジミヘンのような黒人男性が一人で立っているのが見えた。

彼は自由自在にギターを操ってエグイ音を出していたかと思うと急にジョージベンソンのBreezin'を弾き始めた。

私はあまりにも単純だけど、もう嬉しくて嬉しくて泣いてしまいそうだった。

プロ顔負けの演奏がこんな目の前で聴けるなんて、それはもうNYを嫌いなんてとても言えない。

それほど音楽というものは人の心をひきつけてやまない人間の根源的なものなのだ。

黒人の人たちにはそれが顕著なのだと思う。私が言うまでもなく、彼らのリズム感は特別なのだ。

 

ちろん私は能の地謡囃子方に対して心の底に響いてくる魂の声のような、また懐かしさ、それは日本独自の秘められた性質の現れだと思っている。

 

突然NYで地謡がながれてきたら、それを感じることができたかどうか・・・。

 

なんにしてもその時、それはすべてが許されてしまう瞬間だった。

原爆も占領政策東京裁判も、だってそれは一部のエリートが仕掛けた戦争で、ここでこんなに無邪気にシンプルに音を奏でているこの人の身内のだれかはベトナム戦争に駆り出されて地獄の黙示録みたいに、恐ろしい目に遭ってきたのだと思うと、戦争を引き起した守銭奴達を今こそ制裁してやりたかったけれど、多くの世界中の国民は騙され搾取され命を狙われ使い捨てにされているのだ。

日本のためにアジア開放のために命をかけて戦ってくれた、ご先祖様方のことを思うとアメリカを許せないという思いがあった。

しかし歴史経済に親しむようになってから、それは911がきっかだったけれど、

アメリカ人も被害者なのだということを知った。

彼らはたったの1パーセントに満たない少数なのだから、こっちは99パーセント。

多勢ではないか、何をビビっているのか。

 

 

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