この空の下

短いお話

不協和音

 

金曜日いつもの店に18時でいいかい

18時ね、了解です

 

 

仕事を17時に終えて地下鉄に乗り30分前に店の前に着く

ドトールコーヒーに入り時間を潰して約束した店へ向かった

 

本日は高橋様からの予約をお受けいたしておりません

 

私はその場で彼にメールして確かめる。

返信が来ないから電話をかけてみるけれど

留守録だった

仕方ないのでさっきのドトールで彼からの

連絡を待つことにする

 

連絡はなくかれこれ一時間が過ぎた

もう一度携帯へかけてみるけれどやはり留守録のままだった

彼のオフィスに連絡をしてみるとオフィスも終了のガイダンス

彼の自宅にかけてみても当然のように留守番電話だった

 

振られた気分だった

何があったのだろう

まあ大人なのだからいろいろ事情もあるかもしれないし

単に私が日にちを間違えたのかもしれないし

おなかも空いたし

おいしいサンドウィッチを食べさせてくれるCAFEが

近くにあることを思い出す

 

 

CAFEの重い扉を開けるとモーツアルトの不協和音が流れていた

昔からある重厚な雰囲気のカフェだった

窓際の席に着きツナとポテトサラダのサンドウィッチと紅茶を頼む

 

 

いいのよもうやめましょう

そんなつもりで言ったわけじゃないよ

そうかしら私にはそんな風に聴こえたけれど

事実を言っただけだ

だからいいのよもう聴きたくないのここでは

 

囁きのような小さな声の隣の席のカップルの会話だった

 

そして私はモーツアルトに思いを馳せていた

モーツアルトの不況和音の出だしは前衛的だ

当時は受け入れられずモーツアルトは苦しかっただろう

しかしハイドンは理解者でありモーツアルトハイドン

を崇拝していた

ハイドンセットをハイドンに贈ったりするところが

モーツアルトらしい

映画アマデウスではモーツアルトが馬鹿みたいに

描かれていたけれどモーツアルトの書簡を読む限り

父親と妻を大事に思うよき息子であり良き夫だった

いつも前向きで楽しくって明るくて愛に満ち満ちた

人だった

そうでなければ今の時代までモーツアルトの音楽が

こんなに生き生きしているはずもない

 

あなたの彼氏、女の子といたわよ

多分仕事関係の人よきっと

乃木坂でみかけたけど

デートの日でしょう

あなた一人で何しているの

 

幼馴染の親友からのメールだった

 

デートは中止よ

とだけ返信する私だった

 

隣のカップルは仲直りをしたみたい

腕を組んで店を出て行った

 

さあこの先どうしようかな

あてはないけれどもう彼とはダメな気がした

強がったりしない、そう決めた

自分からは電話もメールもしない

彼から連絡があったら

約束はせず、断ろう

どうしてと聞かれたら

不協和音って知っている?

って聞いてみよう

知らなかったら許さない

知っていたら許してあげる

 

 

 

 

 

 

 

 

Close to you

youtu.be



小学校の時に
肌が透けるように白くて背が高くて利発な女の子がいた
彼女はちょっと乱暴なところもあったけれど
それは弱い者いじめをする悪い男子に対してだけ

彼女は子役モデルをしていた
子供服の雑誌や商品のポスター
コマーシャルにもたまに出たりしていた

勉強が得意な子ではなかったけれど
運動会では大活躍する子だった

気がつくと彼女のまわりにはいつも
男の子が影のように群がっていた
彼女は群がる男の子達をからかったり
意地悪したりして楽しんだり
迷惑がったりしていた

男の子達は彼女になんでもいいから
かまって欲しかったみたいだった

中には屈強な男子がいて
たまに彼女をからかって
彼女を本気で怒らすようなこともあったけれど
大体はいつも賑やかな笑い声が聴こえていた

学校の帰り道ぞろぞろと男子達が彼女の後をついて回った
彼女は越境していたので電車通学だった
なので時々は学校の帰り
仲良しの女の子の家で遊ばせてもらって
夕方に帰ることがあった

そんな日に彼女が仲良しの女の子の家から出てくるまで
男子達が談合して待っていることがしはしばあった

あらまたあの子たちいるわよ
仲良しの子の母親が彼女をからかったりすることもあった
そして男子達は駅までまたぞろぞろと
彼女の後をついて行くのだった

大人になってからのことだけど
小学校の同級生の女子会があって
その時に彼女にその頃のことを聞いてみたら
男子達の関心が彼女にあることに全く気ずかなかったと言った

当時彼女には関心がある男の子がいた
ところがその男子軍団の中には
彼女の関心のある男の子がいなかった
そんなことがあって彼女は男子軍団に無関心だった

彼女はいつも思っていたそうだ
自分が親指姫みたいに小さくなって
あの人のポケットの中にいて
いつもあの人と一緒にいたい
それが彼女の願いだった

そして彼女が関心を持っていた男の子が今の私の夫だと言われたとき
数々の思い出が走馬灯のように駆け巡って言葉が出てこなかった

彼女はすぐに子供時代のことだから気にしないでねと
ふっと優しく微笑んだ

私はこういう時は何も言わない方が美しいに決まっていると思い
ただ微笑みを彼女にかえしてその場をお開きにした

正直に言えば、彼女は確かに時を経ても輝いていた
それは誰もが感じ取ることができる事だった
作りが違うというのか持って生まれたカリスマ性なのか
黙って座っているだけで絵になる
満たされている人ともいえる
経済的なことではなく存在していること自体について
彼女は満足しているように見えた
彼女は着飾ってはいなかったし
メイクが凝っていたわけでもない
肩にとどくくらいの長さの髪には
多少の白い髪も混ざっていた
シンプルな紺色のワンピースに真珠のネックレスだけをつけて
紺色のハイヒールを履いていただけだった
周りは結婚式かと思うほどの凝りようの中で

それなのにそこにいる誰よりも彼女が一番光って見えた

Breezin'


youtu.be

 

何年前だろう、もうかれこれ15年くらい前になるのかな。

初めてNYに行ったときのこと、何もかもが最も安い2月に行った。

 

特にNYが好きだから行ったわけでもなく、仕事で行ったわけでもない。

いつかもっと詳しく話したいとおもうけれど、NYにはメトロポリタン美術館があるから行ったのだった。

 

まずNYの入り口であるJFK空港はと言えば世界一の国の空港とはとても思えない造りだった。

いや、NYのすべてが私には宣伝や広告とは全く異なった所に見えた。

先進国って言えないほどの、ぼこぼこさに驚かされた。

極々マンハッタンの一部だけが素晴らしいだけなのだ。

それを言ってしまえば東京だって同じだが。

つまり行ってみないとどんなところかはわからないということだ。

そもそもNYは世界一の最先端の街だと信じ込んでいた私が愚かだったのだ。

 

1ドルでも節約したい私は空港からマンハッタンのミッドタウンまでタクシーには乗らず15ドルのおんぼろ空港バスに乗った。当時は1ドル、119円の時代だった。

バスの中はボロボロ、シートも内装もボロボロ。そのおんぼろさに猛烈に驚いた。

壁の一部ははがれて内側がむき出しになっていた。

運転手はなんと白人だったが、とにかく出だしからもう、なんだこれはと思ったが、国民皆保険もない国なのだから、いやなら稼いでタクシーに乗りなということだろうか。

もちろん利用している人たちは、私と同様うだつがあがらなそうな人たちばかり。

白人も黒人もヒスパニックも中国もと色とりどりの人たちが乗っていた。

私の隣の席には控えめそうなほっそりとした白人男性が座っていたが彼はどこか誰かに似ていると思った。そうだ、いつか読んだ村上春樹が翻訳していたアメリカの作家の

小説に出てくる掃除機を売るセールスマンだ。とても幸せとは言えない、ちょっとサイコパス的なセールスマンだったけれど、憎めない要素があったなと思う。

そんなふうに勝手に妄想をして私なりにこの旅をたのしもうとしていた。

 

そんな中、道路がものすごく渋滞し一時的にバスが動けないときがあった。

ここぞとばかりに黒人のお尻がかっこよく突き出した女たちがソウルミュージックにのって踊っていたことは、心和む出来事だった。

バスは動き出し、時間がせまっているためか猛スピードを出して合流地点でもお構いなしにぶんぶん飛ばしていたがそれはもう恐怖を感じるほどだったけれども、遠くにぼんやりと薄い膜が張ったみたいな巨大なマンハッタンの摩天楼が太陽の光を受けその姿をあらわにしてきた時、私は全身を何かが突き抜けていくような衝撃を覚えた。

何度も何度も映画で観たあの摩天楼が実物として目の前に迫ってくるその迫力に私は急激に感銘を受けた。

そんな大き感動を引っさげて、無事ミッドタウンにたどり着き、バスを降りて私はホテルへと向かった。

 

滞在中セントラルパークへは毎日のように散歩に出かけた。

緑のある所が私には必要だった。

公園内にある池の氷が張っていないところだけにカルガモが集まっていた。

中の一羽には矢が刺さっていた。そのカルガモだけが仲間からは外れたところにいた。

監視員のような人は見当たらなかった。園内のレストランはまだ営業前だった。

その時、遠くからエレキギターの音が聴こえてきた。

わたしは導かれるように音の方に歩いて行った。

音は段々大きくなり、木陰から長身のジミヘンのような黒人男性が一人で立っているのが見えた。

彼は自由自在にギターを操ってエグイ音を出していたかと思うと急にジョージベンソンのBreezin'を弾き始めた。

私はあまりにも単純だけど、もう嬉しくて嬉しくて泣いてしまいそうだった。

プロ顔負けの演奏がこんな目の前で聴けるなんて、それはもうNYを嫌いなんてとても言えない。

それほど音楽というものは人の心をひきつけてやまない人間の根源的なものなのだ。

黒人の人たちにはそれが顕著なのだと思う。私が言うまでもなく、彼らのリズム感は特別なのだ。

 

ちろん私は能の地謡囃子方に対して心の底に響いてくる魂の声のような、また懐かしさ、それは日本独自の秘められた性質の現れだと思っている。

 

突然NYで地謡がながれてきたら、それを感じることができたかどうか・・・。

 

なんにしてもその時、それはすべてが許されてしまう瞬間だった。

原爆も占領政策東京裁判も、だってそれは一部のエリートが仕掛けた戦争で、ここでこんなに無邪気にシンプルに音を奏でているこの人の身内のだれかはベトナム戦争に駆り出されて地獄の黙示録みたいに、恐ろしい目に遭ってきたのだと思うと、戦争を引き起した守銭奴達を今こそ制裁してやりたかったけれど、多くの世界中の国民は騙され搾取され命を狙われ使い捨てにされているのだ。

日本のためにアジア開放のために命をかけて戦ってくれた、ご先祖様方のことを思うとアメリカを許せないという思いがあった。

しかし歴史経済に親しむようになってから、それは911がきっかだったけれど、

アメリカ人も被害者なのだということを知った。

彼らはたったの1パーセントに満たない少数なのだから、こっちは99パーセント。

多勢ではないか、何をビビっているのか。

 

 

youtu.be

 

 

夢の続き

 

 

 

youtu.be

 

いつからだろう

夢を見なくなったのは

 

夢を見る暇もないくらい

一日一日を使い果たしている

 

知識を得るために本を読み、そしてPCを開く

歴史を知りたい

経済を知りたい

政治を知りたい

どのようにして不正が行われ

世界の多くの人々が消耗されるのかを知りたい

一部の人たちが計画的に世界中の富を収奪してきた歴史を読みとき

私は疲れ果てて眠る

真実を知りたいと思うばかりに

だからと言って一体どれだけのことがわかったというのだろうか

知ったつもりになって騒いでいるだけなのかもしれない

 

正義感が強い

そんなことを言わることがある

政治家になればいいじゃない

軽口を言われることもある

日本のことを一番に考えることを

国益重視という

日本のことを大切に思うことを

愛国心という

当たり前のことだと思うけれど

思ったことも考えたこともないという人が圧倒的だ

 

でも最近はそれでもいいと思うようになった

それが普通でいい

 

多分我々の国は困っていないのだ

 

細かく分析すれば問題だらけだと思うけれど

世界一多くの債権を所有している国であり

世界で第三位の経済大国でもある

これは事実だ

 

 

すべてを受け入れるということは

自由になることだと思う

もうそろそろ良いも悪いも考えず

ただありのままを受け入れて

正犯を下すことなど止めて

本来の自分に戻って

時間を忘れてしまうくらい没頭できる

自分にとって楽しいことをこれからはしたい

 

世界を知りたい

196の国には何があってどんな歴史があってどんな人がいるんだろう

私は世界を知らない

世界を丸ごとつかんだという感覚がまるでない

俯瞰して見たこともない

世界とは地球だ

地球に住んでいながら地球のことをまるで知らない

そもそも日本にいながら日本のことだって

知らないに等しい

一部は知っていても全体を知らない

 

伊能忠敬は思考ではなく実体験として日本列島の形を知った人だと思う

 

生きているうちに一体どれだけの国に

どれだけの人に出会うことができるのだろう

 

そしてなんのために生まれてきたのか

どうして自分なのか

なぜ両親のもとに生まれてきたのか

この性質は一体どこから来たのか

この人体の設計図をだれかどうやって作ったのか

意識はどこからくるのか

宇宙の果ては一体どうなっているのか

私がここにいるということをどうやって証明することができるのか

自分の目を通してこの世界を見ているけれど

自分の目を通さない世界は一体どんなふうなのか

見えないものが存在しているかもしれな

 

そうだ考えることをわすれていたんだ

仕事とネットに時間を費やし

知識を得ることばかりを考えていた

 

不思議におもうことを

何もしないでいることを

感じるだけの時間を

私は失っていた

 

ただ夢はひっそりと私の近くにいて

私が気がつくのを待っていてくいれたのかもしれない

 

夢の続きを見るため

私は目をつぶり

時間をわすれる

 

接吻

youtu.be

 

若さって唐突さってことかもね。

彼なりに計画していたのだと思うけれど。

お誕生日だからってバイト先のお好み焼き屋さんに連れて行かれた。

パルコに入っていたちょっとモダンなお店だった。

彼は飲み過ぎるほど飲んでいた。

自分を潰すために飲んでいるみたいだった。

お酒臭くてちょっと嫌だなと思った。

冷やかされながらお店を出て彼はタクシーを私の自宅のかなり手前で止めた。

今日はありがとう、とても楽しかったし美味しかったモダン焼き

いいんだよ、また行こうね。そう言いながら彼は突然私に接吻をした。

そして私を強く抱きしめた。

 

どうしてだろう。それから私は彼がだんだん嫌いになっていった。

逢っても話をしなくなった。

彼とは小学生の時の同級生だった。

大人になってから同級生の会で再会してたまに逢うようになった。

お互いに小学生の時にひそかに好き同士だったことを知った。

彼はその時大学生で私は社会人だった。

 

子供のころのとても楽しかった思い出。

雪合戦を屋上でした。

4人で新宿御苑に夏休みにいった。

学校の帰りに駄菓子屋に寄った。

お楽しみ会でコントをした。

 

そんなことが次から次に浮かんだ。

私たちは大人になってしまったんだ。

でも私はあの頃のままでいたかった。

今よりもあの頃の方が楽しかったし生き生きしていた。

もっともっと正直だったしもっともっと美しかった。

 

 

 

 

 

Tomorrow never knows

youtu.be

 

明日は明日の風が吹くなんて思って生きていた。

ただ与えられた毎日を繰り返し生きることが生きることと思っていた、あの頃は。

傷つくという言葉を知らなかったし、人を傷つけるなんてことも考えることもなかった。

だから友達の彼女とデートしても全く罪悪感もなかった。

女なんてそんなもんだと思っていたんだ。

退屈な毎日を彩らせる役割にだけ、女はいたんだ。

でも女って勘違いをして、あなたは私だけ愛してねなんて言うからまるでわかっていないんだ女って男のことを。

学校で教えた方がいいんじゃないかって思ってた。

 

NYに仕事で行ったときのことだった。

グリニッジビレッジにカフェダンテといううまいコーヒーを飲ませる店があった。

その店でカプチーノを楽しんでいたときだった。

日本人の女が店に入って来た。

俺の隣の席だけが空いていたから彼女はそこに座った。

見栄えの良い女だった。

NYに長いんだなと思うようなたたずまいだった。

この近くに映画館があって黒澤明の乱がやっているから観に行かないって、女が席に着くなり言った。

こともあろうに、有無も言わさない勢いで、さあ行きましょうって腕を引っ張られるように映画館へ俺は拉致された。

 

チケット代はただみたいなもんだった。

何なら払わないでもよいとまで言われた。

サービスですだって。

営利目的ではない団体が主催しているということだったのかもしれない。

 

女は何の説明もなしに一ドル札を窓口で払ってすたすたと中へ入って行った。

座席はフラットですり鉢型になっていないから後ろの席は観にくい。

前の席の奴が、観えますかって気を使っていたから大丈夫問題はないと伝えた。

 

俺たちは自己紹介もなく隣同士に座って黒澤の映画を観た。

ここNYでは同じ日本人と見たら郷土愛のようなものが作用して特別な事がない限り壁なくふるまうことがしきたりなのかと思わせるほど女はくつろいでいた。

それならこっちから自己紹介するのも面倒だからこの流れに流されてみることとして映画を楽しもうと思い、仲代達也よりもそれは勝新が良いと思うけれど、勝新は口出ししすぎるから黒澤に嫌われてしまったんだな、だから仲代でこの役は良いんだと自分に言い聞かせたりした。

隣の女はこの映画を観て何を考えているんだろう。

視線をそらすこともなくスクリーンを見つめ続けていた。

映画が終わり、外に出ると陽はどっぷり落ちて町はすっかり夜になっていた。

誘惑するのには彼女をあまりにも知らなさ過ぎたし、飯でもと思ったけれど、なんとなく気が乗らなかった。

そんなこっちの迷いをよそに女は名刺を差し出した。

結構な会社の偉い人という肩書だった。

仕方なく俺も名刺を渡した。

女は何か言いかけたけれどなにも言わないことを選んだように言葉を飲み込んだ。

彼女のためにタクシーを拾うと、あなた私のこと完全に忘れているのね、となんというか、失望でもなく恨みでもなく諦めでもなく労りでもなく、表現しようもない表情が彼女の顔に浮かんでいた。その時ほど頭を使ったことはないくらい俺はいままでの女性とのシーンを片っ端から頭に浮かべてみたけれどどうしても彼女が出てこない俺の頭には。きっと人違いだよ、と自分に言い聞かせるように訴えた。

 

今こうして東京のオフィスに一人残って、ビールを飲んでいると、いろいろなことが

思い出された。そうだあの子だったんだ。あんなにおとなしかった子が今では億単位の年収をもらうようなエグゼクティブになっていようとは。わからないのは当たり前だと思った。貫禄もついていたし、着ている服だってそれ相応のブランドだったと思うし

あの頃のあの子はかわいいピンクのワンピースを着ているような子だったんだから。

いかにもお嬢様という控えめな子だった。先輩にあこがれているんですなんて言われたって何をどうしたらいいのかなんて俺にはさっぱりわからなかった。明らかに何かを期待しているような粒らな澄んだ瞳をいとおしく一瞬見えたけれど、怖かったんだ。何がって、結局は嫌われてしまうことが。それをうまく言えなくて、ありったけの勇気を振り絞って告白してきたあの子に対して、興味ないんだよな、って吐くようにつぶやいて俺は立ち去ったということだった。

それっきりすっかり忘れていた。随分ひどい人と陰で言われ続けていたみたいだけど、むしろ俺は人助けをしたまでだと思っていたから、一切気にしなかった。俺と付き合ったって彼女が幸せになるはずもなかったから。

彼女は俺だと知っていて映画に誘ったのかそれとも名刺を見るまで俺だってわからなかったのか。俺は彼女の名刺を見ても、彼女の名前さえ憶えていなかった。ひどい話だけど。彼女は既婚者だろうか、それとも独身なのかバツイチなのかと、この期に及んでどういうわけか彼女のことが気になって気になって仕方がなかった。NYへ飛んでいこうか、夜20時の便ならNYには夜の21時には着くだろうなんて考えたりして。

 

 

 

 

Stay My Blue

 

youtu.be

東京で会おうよ。

彼は明るく輝くように言う。

赤いアロハシャツは彼に良く似合っていた。

思えば彼は美しい人だった。

心も体も。

白いバミューダパンツに焼けた上半身がたくましくもあった。

 

遊びが目的の中で彼だけが真面目だった。

何故か彼は私を選んだ。

 

私は女友達数人と白い浜辺にやってきた。

理不尽なことばかりを要求する身勝手な男と付き合っている東京から逃れたくて。

 

手をつなごうよ、と彼は私の手を取った。

とても見晴らしの良いところがあるんだ、もっと上の方だけど。

でも夜も遅いし、また明日行こうね。

いつまでいるの。ホテルに明日迎えに行ってもいい?

悩ましい瞳で私を見つめる彼。

東京でデザイン学校に行っているんだけど、夏休みで地元に帰ってきているんだ。

東京のどこに住んでいるの?

彼氏はいるの?

私は黙って首をふるだけ。

言えないんだね、それなら俺の住所と電話番号を渡すから。

最後の日彼はホテルに来てくれて、私の手にそっとそのメモを握らせた。

さよならとだけ言った私。

 

私は東京の男とは別れた。

なんか踏ん切りがついた。

もうこれ以上許せないという気持ちだった。

ほかに男ができたんだなと、言われたけれど、何も無い私は

黙って席を立ちその場を後にした。

 

うっとおしい空気がそこら中を支配していた。

海に帰りたかった。

白い砂浜で一日中音楽を聴いていたい。

 

けれど海で出会った彼に連絡はしなかった。

どうしてもできなかった。

白い砂浜は白のままが良くて

青い空と海は青いままであってほしい・・・と思ったから。